「家族がいない場合、入院や手術の同意は誰がするのだろう…」
このような不安を抱える高齢者は年々増えています。
単身高齢者やおひとりさま世帯の増加に伴い、医療現場では「本人の意思を誰が支えるのか」が大きな課題となっています。特に、認知症や意識障害によって本人が意思表示できない場合、治療方針の判断は非常に難しくなります。
こうした背景から、厚生労働省は『身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定支援に関するガイドライン』『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』を策定し、医療現場での対応方針を示しました。
この記事では、身寄りがない方の医療意思決定の仕組みや課題、将来に備える具体的な対策について、不安を抱える方に分かりやすく解説します。
身寄りがない人の医療現場で起きる問題
医療の意思決定が難しくなる理由
身寄りがない人が入院した場合、医療現場で大きな問題となるのが「治療方針を誰が決めるのか」という点です。
通常、医療機関では本人の意思を基本としています。
そして、必要に応じて家族が補足的な役割を果たします。しかし、おひとりさまで家族との交流がない場合、その役割を担う人がいません。
特に問題となるのは、本人が認知症や意識障害などで意思表示できないケースです。
- 延命治療を希望するのか
- 手術を受けたいのか
- 積極的治療を望むのか
- 苦痛緩和を優先したいのか
このような重要な判断について、本人以外が決定せざるを得ない場面があります。
本来、医療は「本人の意思」に基づいて行われるべきものです。しかし、その意思が確認できない場合、医療現場には大きな負担と混乱が生じます。
本人の意思が分からない場合の課題
本人の意思が全く分からない場合、医療チームは「その人ならどう考えるか」を推測しながら判断を進めます。
しかし、推測には限界があります。
結果として、
- 本人が望まない治療が行われる
- 延命治療の判断で意見が分かれる
- 後から親族等とのトラブルになる
といった問題が起きる可能性があります。
特に終末期医療では、倫理的な問題も大きく、医療現場だけで判断を抱え込むことは簡単ではありません。
こうしたリスクを減らすためにも、厚生労働省のガイドラインでは「事前準備」の重要性が強調されています。
ガイドラインに基づく医療意思決定の仕組み
最も重視されるのは「本人の意思」
厚生労働省のガイドラインで最も重要視されているのは、「本人の意思の尊重」です。
たとえ現在は意思表示できない状態であっても、
- 過去の発言
- 事前意思表示の記録
- 生活歴
- 価値観、人生観、信条
などから、家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、
本人にとっての最善の方針をとることを基本とされています。
つまり、「医学的に最善か」だけではなく、
“その人にとって何が最善か”
を考える視点が重要なのです。
医療現場では、単なる治療選択ではなく、その人らしい人生を尊重する支援が求められています。
家族以外が治療方針支援はできる?
もともと厚生労働省のガイドラインでは、本人の意思を推測する役割は「家族」とされていました。
しかし平成30年の改訂により、「家族等」という表現へ変更されました。
これは、
- 親しい友人
- 継続的に支援している人
- 信頼関係のある第三者
など、より広い関係者が本人意思を支える存在として想定されるようになったためです。
厚生労働省の報道発表資料でも、「法的な意味での親族関係のみを意味せず、親しい友人等、より広い範囲の関係者を含むことが期待されていることが明確となっている。」と説明がありました。
また、患者本人が説明を受けられない場合、「家族等」への説明でも診療報酬算定の対象となっています。
つまり現在では、家族だけでなく、本人をよく理解している支援者も重要な役割を担うようになっています。
家族等もいない場合は?
本人の意思確認が難しく、家族等がご本人の意思推定が難しい場合・家族等がいない場合には、
ガイドラインでは「関係者や医療チームによる合議」によって、ご本人さまにとって最善な方法を検討するとされています。
この判断には、
- 医師
- 看護師
- 医療ソーシャルワーカー(MSW)
- ケアマネジャー
- 地域支援関係者
など、多職種が関与します。
複数人で検討することで、一人の判断に偏らない公正な意思決定を目指しています。
また、必要に応じて行政や地域包括支援センターなど外部機関と連携する場合もあります。
医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割が拡大
厚生労働省は令和8年3月に、医療ソーシャルワーカー(MSW)の業務指針を約23年ぶりに改正しました。
今回の改正では、「患者の意思決定支援」が標準業務として明確に位置付けられています。
背景には、
- 単身高齢者の増加
- 在宅医療の拡大
- 身寄りのない患者の増加
といった社会変化があります。
新しい指針では、終末期医療や身寄りのない患者支援も含め、「患者本人の価値観を尊重する支援」が重視されています。
法的拘束力はありませんが、今後の医療現場における重要な指針になると考えられます。
一方で、現時点では認知度が高いとは言えず、今後の周知と現場浸透が課題だと感じています。
将来のために今からできる対策
事前意思表示を残しておく
医療意思決定のトラブルを防ぐためには、元気なうちに自分の希望を明確にしておくことが非常に重要です。
例えば、
- 延命治療を希望するか
- 人工呼吸器を使用したいか
- 最期をどこで迎えたいか
などを文書に残しておく方法があります。
代表的なものとして、
- リビングウィル
- エンディングノート
- ACP(人生会議)の結果を記録に残す
などがあります。
事前に意思表示を残すことで、医療現場は本人の希望を尊重しやすくなり、支援する側の負担軽減にもつながります。
おひとりさま医療サポートの重要性
身寄りのない高齢者にとって、事前準備と継続的な支援体制は非常に重要です。
いきいきライフ協会中信では、医療支援を行う際、必ず事前意思表示に関する書類作成をサポートしています。
さらに、単に書類を提出するだけではなく、
- なぜその意思に至ったのか
- どのような価値観を持っているのか
といった背景も含めて医療機関へ情報提供しています。
実際の医療現場では、「本人らしさ」をどれだけ理解できるかが重要です。
弊社でも、治療方針の検討場面において、本人の信条や価値観を最大限尊重した支援を行っています。
まとめ|医療の意思決定は“元気なうちの準備”が大切
身寄りがない場合でも、医療を受けられないわけではありません。
しかし、本人の意思が分からない状態になると、医療現場では大きな判断の難しさが生じます。
だからこそ、
- 事前意思表示
- 信頼できる支援者の確保
- 医療サポート体制づくり
が重要になります。
「まだ元気だから大丈夫」ではなく、元気な今だからこそ準備できることがあります。
将来、自分らしい医療を受けるためにも、早めに備えておくことが大切だといえます。
